2.どちら

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 俺は思う。先に死んだ方が幸せだったと。もしも話は最低だ。最悪だ。中島の受ける苦痛を考えれば、トラックで即死した方が遥かに楽というものだ。それに、いじめの被害に遭えば、中島は何度も死ぬことになる。心を殺され精神を壊され、肉体的な暴力も受けていれば身体も殺される。彼はボロボロになってしまう。それに比べてどうだろう。トラックに轢かれる彼は。その時その瞬間まで最上の喜びに浸れるのだ。それもその幸福がハリボテだったことを知ることもなくこの世を去ることになる。無念は残るかもしれない。その無念が彼にとっては最大の心残りとなるかもしれない。化けて夜な夜な現れるかもしれない。それで構わないじゃないか。化けて出るならいじめ自殺の方がよっぽど酷い。質の悪い悪霊、質が悪いから悪い霊と言うのかもしれないが、とにかく不幸のどん底に突き落とされることは確実なのだ。確定なのだ。それなら俺は望むよ。中島俊之よ、どうぞトラックに轢かれてください、とな。  これで話はおしまいだ。どうだったろう。途轍もなく嫌な話だったかな。虚しい話だったかな。折角のもしもの話にしたって、中島の運命は不運過ぎた。悲運すぎた。  しかし、話は終わってももしもは終わらない。もしもの話はもしもと思う限り、永遠に続くのだ。どんなに予想外な可能性を、もしもは秘めている。その可能性は現実を動かせる力を持っていることもある。確実にある。人が描いたことは、大抵が実現するのだから。
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