2.どちら

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 彼の変わりように首を傾げる両親だけれど、暗くなっているわけではないので、むしろ喜ぶべきことなのかもしれないと、家族の輪が和む。息子の根の暗さは両親にとっても悩みの種であり、特に朝は不機嫌なことが多い。そのため今の状況に若干の戸惑いはありつつも、元気ならそれで良い、と彼を黙って見守ることにした父母だった。ちなみに彼の根の暗さは折り紙つきで、うっかり宿題を忘れてしまえばそのことを最低三日は引きずるし、登校する日の天気が青空だと無条件に気分が沈んでしまう。明るさ、というものとは全く無縁な生活を送っている。友人だって少ない。胸を張って友人だと言える人など一人もあげられない。勝手に僕が友達だと思い込んでいるだけなのではないのか。そんな根暗な彼である。  母親はおかわりを要求する息子に笑顔で応じたし、父親は元気よく挨拶をする長男にこちらも負けるかとばかりの快活な挨拶を返してみせた。中島家の食卓は通常の二倍どころではない明るさを見せていた。  中島俊之は一刻も早く学校に行きたいと思っていた。もっと言えば早く放課後になってほしいと思っていた。帰宅部の彼が、早く帰りたいな、以外の理由で登校前から学校の終わりを願うのは、まさに一生に一度のことであり、後にも先にもそのようなことはない。  行ってきます、の挨拶もどこか誇らしげに聞こえ、母親は満面の笑みで颯爽と自転車で駆けて行く我が子を見送った。
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