渡し

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「どちらにしてもここで待ち合わせさ。待ち人が現れるまでは居座るよ。悪いけど」 女の態度に主人は苦虫を噛み潰したような顔で、二杯目を注いでやる。そのまま面倒はご免とばかりに、奥に引っ込んでしまった。 「情人でも待ってんのかい」 にやついた若い男が女の脇にやってくると、足先から頭の天辺までをじっくり眺め回し、やはり、左頬に視線を止める。それからふいに顔を背けた。 「いいや、仕事だよ」 「仕事? 何の」 女は男をちろりと見て、答えない。 「あんた何て名だ」 「ヒガン」 「いい名だな」 女は酒を口に含みながら苦笑する。何を基準にして名前の評価がなされ、言葉が紡ぎ出されたのか。 「無駄話はもういいだろ」 別の男の下卑た声が彼女の背後からした。 男の巣窟に女一人は無用心に過ぎる。しかも酔漢ばかり。あからさまに酔気による淀んだ臭気が流出し始めていた。
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