カオル

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『眠ってはいけない』 頭の中の防衛本能がそう言ってるのに………。 「小河、ぉ前、マイスリーどのくらいいれたんだ?」 「1包だけですよ。 苦くなったら、わかっちゃうんで」 「即効性がウリのやつなのに、なかなか効かないから焦ったじゃんか」 小河と大男の声を何度も聞き逃しそうになる。 『あの、薄いお茶になんか入ってたんだ………』 そう理解するのに、 まるで幽体離脱でもしたかのように、 身体を動かせない。 「斎藤さん、どうするんですか? 判子とか、きっと持ってきてないですよ、この子。」 …………………サイトウっていうんだ……… デカ男の名前。 「オーディション受けるんだから保護者の判子持ち歩くのもいるんだけどな、 バッグ探ってみろよ」 『 あ………ダ………………メ』 悪質な子守唄が、 身体を起き上がらせようとするけれど 「あ、あった!! 斎藤さん、あった!これ、″認め″じゃないっすよ!」 「こいつ、受かる気マンマンだったんだな………… おっ!と、あんまりデカイ声出すなよ、美穂ちゃん目覚ましちまうだろ?」 微かに伸ばした右手を、 「………………っ!」 馬乗 りになってきた斎藤の重みが、 私の動きを完全に止めた。 ソファーが、一気に下に下がったように感じるほど、 斎藤の体は重たかった。 「目、覚ましちゃったなら、早速撮影しようか? 雑誌には、載らないかもしれないけど」 起きたいのに、 意識も、体も言うことをきかずに、 斎藤のバカでかい手が、 私の上着を勢いよく脱がしていく。 ポケットの携帯電話が鳴っているようだ。 「あの、オーディションの黒い水着 持ってきてたらいいのにな」 勝手に写真を撮る気でいる斎藤たちは、 服を脱がされ、肌寒さから目覚めてしまった微かな私の防衛反応を 二人がかりで制止した。 安っぽいカメラのフラッシュが、 ちゃんと開かない目に、何回か飛び込んできたところで、 また、 意識が遠退いていく。 こんなときに寝れるって、 どんな神経してるのよ、私。 自分の胸に触れる大きな手の感触も、 いつの間にかなくなっていった。
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