恋とキズ

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「泳げる?」 その質問に答えるのに、少し時間がかかってしまった。 なんせ、中学時代は、プールはおろか、体育の授業はほとんど出なかったから、 実際に水に浮くかもわからない。 「本格的に泳ぐんですか?」 プールサイドで、ポーズを決めてれば良い、静止画の広告とは違う。 動く私が、商品をアピールしなければならない。 「プールのなかで、クロールしてるところ、下から撮影したいんだよ。 そして、水面から、水滴はじく色白美肌のMIHOちゃんがザバっと顔を出す!」 『………なんか、見たことあるようなシーンだなぁ』 ″ 色白 ″ 美白化粧品の日焼け止めクリーム、その宣伝に、私が起用された 理由の一つだと思う。 「練習してみてもいいですか?」 クロールなんか、 小学校の時以来、やったこたない。 「メイク崩れるから、ほどほどにな」 お父さんのようなプロデューサーは、 にこやかだけれど、 時間を気にしているようだ。 時計ばかりを見ている。 「う、水つめたっ」 温水ほど温かくはない。 これ、五月に泳ぐにはちょっとツラいかも。 更に足を恐る恐るつけてみた。 『ヤバい、ほんとに寒い。一回で済 ませよう』 私がもっと有名なモデルなら、 扱いも、もう少し違ったかもしれないな。
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