恋とキズ

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「はい、ほんとに、ここで。 まだ、打ち合わせ途中なのに、ありがとうございました。」 バイブに切り変えていた携帯電話が、ずっと気になっていた。 CMプロデューサーに、会釈して その制作会社社用車の助手席を降りようとした私。 「な、MIHOちゃん!」 また、呼び止められる。 「………………はい………」 もう、 昔の傷や潤平の事なんかを聞かれるのは、うんざりだ。 「今度、俺が人選まで任されたCM、関東限定なんだけど、出てみない?」 「え?」 「とても、いい仕事だよ」 闇を知る大人は、 平気で子供を、騙そうとする。 「………それは事務所に話して貰えますか?」 暗闇のなか、 お父さんに似た手が、 私の右手と、右膝をつかんでいた。
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