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速鷹 薫が、スエットをはいて、
私とおんなじようにヨガのポーズをしている。
「………そんな驚いた顔すんなよ。今日のヨガは、クライミングに有効なんだよ」
股関節の柔らかさは、
クライミングに大きな役割を持つって、
確かに始めに聞いた。
「他の男性もそんな目的なんですか?」
インストラクターの先生を食い入るように見つめる男性たち。
「お前にさっき、声かけてきたの、
アパレル大手の24区の取締役だぞ」
「えっ?!」
足を前後に広げたまま、
先ほど私のジャージをダメ出しした男性を振り返る。
「そんな風に見えない………」
「お前、失礼な奴だな。」
薫は笑いながら、私よりも柔らかい体をしなやかなに伸ばしたり曲げたり、
ムダな動きなく、真面目にヨガを続けていた。
「そもそも、クライミングをやる大人って、何が目的なんですか?」
趣味なら、ゴルフとかもっと釣り合ったスポーツがありそうなのに。
薫は、
やっと、動きを止めて、持っていたタオルで汗を拭き、そのタオルを私に投げ渡した。
「クライミングをやる奴の中には、実業家が多かったりするんだ」
「………へぇ」
受け取ったタオルで、恐る恐る顔を拭く私。
「″もうこれ以上登れないかもしれない″ そんな窮地に追い込まれた時に、判断力や行動力が養われて、それが自然と経営にプラスになるからだよ、ほかの事業家との交流もできるしな」
良い香りのするタオルにドキドキしてる私に、
真面目な話を続ける薫は、
「きいてんのか?」
と、
軽く頭に突っ込みをいれる。
「き、聞いてます」
こんなに、立派な考えを持ってる人なのに、
『速鷹 薫はマザコンだから』
この人、お母さん子なんだ。
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