29/40
前へ
/40ページ
次へ
速鷹 薫が、スエットをはいて、 私とおんなじようにヨガのポーズをしている。 「………そんな驚いた顔すんなよ。今日のヨガは、クライミングに有効なんだよ」 股関節の柔らかさは、 クライミングに大きな役割を持つって、 確かに始めに聞いた。 「他の男性もそんな目的なんですか?」 インストラクターの先生を食い入るように見つめる男性たち。 「お前にさっき、声かけてきたの、 アパレル大手の24区の取締役だぞ」 「えっ?!」 足を前後に広げたまま、 先ほど私のジャージをダメ出しした男性を振り返る。 「そんな風に見えない………」 「お前、失礼な奴だな。」 薫は笑いながら、私よりも柔らかい体をしなやかなに伸ばしたり曲げたり、 ムダな動きなく、真面目にヨガを続けていた。 「そもそも、クライミングをやる大人って、何が目的なんですか?」 趣味なら、ゴルフとかもっと釣り合ったスポーツがありそうなのに。 薫は、 やっと、動きを止めて、持っていたタオルで汗を拭き、そのタオルを私に投げ渡した。 「クライミングをやる奴の中には、実業家が多かったりするんだ」 「………へぇ」 受け取ったタオルで、恐る恐る顔を拭く私。 「″もうこれ以上登れないかもしれない″ そんな窮地に追い込まれた時に、判断力や行動力が養われて、それが自然と経営にプラスになるからだよ、ほかの事業家との交流もできるしな」 良い香りのするタオルにドキドキしてる私に、 真面目な話を続ける薫は、 「きいてんのか?」 と、 軽く頭に突っ込みをいれる。 「き、聞いてます」 こんなに、立派な考えを持ってる人なのに、 『速鷹 薫はマザコンだから』 この人、お母さん子なんだ。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加