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「そう言えば、………社長就任おめでとうございます。やっぱり大変ですか?」 ″ おめでとう″ って変かな? 実のお父さんが退任したのに。 ………そう思ったけど……… 「大変だな。うちの会社、買収の成功と失敗繰り返してるし、目玉商品にリコールまで出てる。おまけに 元社長は、女に着服した金をつぎ込むし………」 薫は、ため息をつきながら、 私に本音らしきものを吐いて、再び体を動かし始める。 「家族は、仲いいですか?」 会社で不祥事を起こした父親と、 大好きな母親………。 薫は、家でどんな生活を送っているんだろう? 「一緒に住んではないし。仲良くはないな。」 ″ 何でそんなこと聞くんだ? ″ そんな表情を浮かべながら、足をあぐらかいて、体を床に伏せていく薫は、 やっぱり、均整のとれた美しい背筋を私に見せつけて、再び汗をかいていく。 「お母さんとも、ですか?」 つい、 余計な事を聞いてしまった。 「人の事より自分の心配しろよ。 自分を虐待していた親や、干されそうになってる彼氏、 考える事は他にあるだろ?」 明らかにムッとした顔色に変化した薫は、 時計を見て、スッと立ち上がり、ヨガの教室を出ていく。 『怒らせちゃった………』 「あれ、HISEIDOの社長だろ?新しい………」 そんな薫の噂を、 近くにいた事業主らしき男性達が噂を始めた。 「アイツ、ホントに血の通った人間じゃないよ」 ………………そこまで、ないでしょ? そんな噂を耳に挟みながら、 私も再び体を動かしていく。 「あの男、父親の愛人とも関係して、 嫉妬のあまりその愛人を父親と共に 消してしまうつもりらしいよ」 ____え……… 退任した父親の愛人とは、 紅子のこと______ 「その愛人、今ごろ 生きてないって」 たしか 紅子が、干されたのは、 社長を裏切って、他に好きな人が出来たからだと聞いた……… 『まさか』
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