cry

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ワンピースの服のファスナーを下げても、 それを脱ぐ素振りを見せながら 大塚氏の返事をじっと待っていた。 『枕なんて……できたら したくない』 その思いが、私の動きを停止させている。 「彼が整形したこと、なんで知ってる?それは、本人から聞いたの?」 「幼い時の写真を見る機会があって、顔が変わっていたからです……」 自らをハッカーだと言っていた沖田君も知っていた。 「引き取られる前の写真をまだ、持っていたのか」 恐らく、50代であろう大塚氏は、 微笑みは完全に消して、 「手を止めるんじゃない」 また、 手を出さないSっぷりをあらわにしだす。 「……………なぜ、幼い子供の顔を変える必要があったのですか?違法じゃないんですか?」 水着の撮影に慣れたせいか 衣類を脱ぐことには、そんなに抵抗はない。 ただ、 「どこまで知ってるか分からないな。 ……速鷹 薫は、母親の不倫相手の子供だったんだ」 この、 ショーでも見るように、 酒を飲みながら、その過程を見られるのは、 さすがに恥ずかしくて屈辱的だった。 「……不倫……」 「その妻の浮気相手の子供を引き取り、 跡継ぎを取った形にしながら、 速鷹会長は、虐待も込めて、顔を変えてしまったんだよ。 憎らしき不倫相手の顔にソックリだったからよけい」 自分の父親と、薫の養父が、 頭のなかで重なっていく…… 私が下着姿だけになると、大塚氏は 「その手術をしたのは、確かに私だよ」 グラスを置いて 指と顎で全部取るように示唆してきた。 「妻の浮気相手との子供を愛せないのは当然で、 その子を溺愛する妻にも愛想をつかした男が夢中になったのは、 カリスマモデルの紅子だった」 薫の話を聞いていると、 まるで、自分の話を聞いているかのように思えてきて、 流石に全裸になると思うと尚更、 涙をこらえきれなくなってきた。 「君は、どうして、今日の会を拒まなかったの?」
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