紅-2

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″サヨナラ″ そう言ったのに、薫が大塚病院へやって来た。 「少し見ない間に 痩せたな」 私は、再び点滴を受け、何事もなかったかのようにベッドに寝かされた。 「……あまり食べてないから」 薬物のことを薫に話さないからと、 先程の未遂の行為を口止めされている。 「仕事は、またアメリカから始めたらいい。俺もあっちの支店に行きたいと思ってるから」 「……お母さんは、それ納得してないよね?」 大塚医師が、部屋の入り口に立っているのは気配でわかった。 「俺は、父親と母親から、少し離れて暮らしたいんだ。 母さんは、俺に依存してるから、 ちょっと心配だけど」 ………………依存……というより、 貴方の全てを欲しがっているんじゃないの? 「飛行機のチケット取っておいた。先に俺の友達と行くといい。パスポートはあるだろ?」 「……友達?」 薫は、航空券を私のバッグに入れると、 「俺の大学の時の親友だ。 唯一信用できる男。……青山でカメラマンをしてる。 ロサンゼルスにロケがあるらしいから、一緒に先に向かってくれれば安心だ」 優しい口調で、また、私の決意を揺るが そうとする。 「…………大丈夫……かな?」 アメリカまで追ってきて 婦人に命狙われるなんてことないよね? 弟の潤平に危害を加えるなんて、 単なる脅し………… 「大丈夫……」 優しいキスが、 私のなかの恐怖と不安を、薄れさせていく。 ____サヨナラ……したくない。
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