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お母さんの死を突きつけられて、
子供のように泣いていた薫とは
まるで別人のように、
優しく、
強く
私を抱き締める。
「俺は紅子に裏切られたと思っていたから、行方も探さなかったし
奴らが裏で人身売買までしていたなんて気づかなかった……」
ずっと、
鼻について、苦しくて仕方なかった絶望の臭いが、
薫から漂う、温かい生きてる匂いで、
消えてしまいそうな感覚に陥る。
「俺も紅子を探したい。
その為にどうしても香港に行かなきゃいけない。
この船の後を、水上警察と海上保安庁が連携して追ってくれているから、
奴らの現場を押さえるまで、我慢してほしい」
その夢心地も、
紅子への愛があるからで、
私は少し胸がチクリとしたけれど、
「…………希望、もっていいんだね?」
生きて帰れるなら、
失恋くらい、何回でも経験しても構わないと思った。
「ありがとな。
美穂が動いてくれなきゃ、俺は何も知らないで全てを失うだけだった。
もし、紅子が見つからなくても、
お前だけは日本に無事に返したい。」
まるで、
子守唄のような薫の言葉が、
なんだか温かくて
揺れと、
安心感と、
疲労感で、
薫とお父さんの間で、
軽く眠ってしまっていた。
のんきにも、
夢のなかで、
私、
ステージを歩いていたんだよ。
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