____ 別れ-2-2

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ビールなんて、どこが美味しいんだろ? 炭酸キツくて 苦くて 匂いも全然そそられない。 ………お父さん……… でも、 お父さんはよく飲んでいたっけ。 あの、忌まわしい夜も、 お父さんからこんな匂いがした。 「ゴホッ………!」 早く飲み干そうとイッキ飲みし、むせする私を クライミング部の子達は、ヒューヒューと囃し立てながら笑って見ていた。 「そんな風に濡れたシャツ姿で瓶 くわえられると、ちょっエロくて、やばいんだけど!」 一人が、 やっぱり、違う欲をあらわにし始める。 「どーせ、あの愛理って女、一人助かってラッキーだと思って逃げちまったよ、 沖田、いいだろ?俺一人位なら」 そう言って、私に近寄ってきたのは、 この、″GALAXY″の息子だ。 「お、お前、抜け駆け!」 他の部員も接近し始める。 「いタッ!」 まだ、完全に飲み干していないビール瓶を取り上げられ、その腕も、 左腕も背後から抑えられてしまった。 「沖田、お前の始めの指示なんだからな」 「沖田くん! 私、飲んだら行くよ!」 「行けるわけねーだろっ?バアカ!」 「沖田くん!」 私は あなたの好きだったはずの潤平を 守ったよ? 「キャっ!!」 「時間がねーぞ!沖田!」 沖田君の返事を待てなくなった一人が 私を蹴って地面に倒し、 そのときに思い切り左の頬を床にぶつける。 「………………っ」 痛みで、 涙が出て、 頭のなかもクラクラした。 シャツのボタンの糸が切れる音が、 私の中の前進しようとする心もプッツリと切ってしまったのか、 それとも、 頭を打ったせいなのか、 強いはずのアルコールに負けてしまったせいなのか、 ____体が動かなくなった。 ______「………かおる」 最新記憶には、潤平に抱かれた夜の事が鮮明に浮き上がるのに、 声は、 薫を呼んでいた。 「うあ、でけっ」 「暗くてよく見えねー」 最低な声も、ボンヤリ聞こえて それから背けたかった私の視界に ………………沖田君のスパイクが、 近づいてくるのが見えた。
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