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完全に意識を失った沖田くんの鼓動が、
耳元でその安定性を確認したとき
コンコンコン!
「烏山さん、ここにいらっしゃいますか?!」
店のドアを叩く音と、
私を名字で呼ぶ大人の声が、
沖田くんと同じ所へイキそうだった私の意識を呼び戻した。
「だれだ?」「おい、鍵かけろよ!」
部員の一人が入り口に向かうと同時に、
ガチャ!!と
ドアが勢いよく開かれる。
「烏山さん、
薫社長が渋谷の現地でお待ちですよ」
そこにいたのは
「………………眞田さん」
「誰だよ、お前?」「不法侵入すんなよ!」
薫の運転手兼SPの眞田さんだった。
____助けに来てくれた。
「いくら暑いからと、室内で水遊びは高校生にしては、幼稚過ぎませんか?」
ビールでびしょ濡れの私を、
眞田さんはスーツの上着で覆いながら、
サッと自身の背後へと導いて、
奥で倒れている沖田くんに目をやった。
「警察は呼びません、早く救急車を呼んでください」
部員達は、
少し冷静になったのか、
動かなくなった沖田くんを見て動揺し始めている。
「ここには、
烏山美穂さんはいなかった、
あなた方だけで遊んでいた。
それでいいですか?」
「………………やべぇ」
震える手で、携帯から救急車を呼ぶ部員達の姿を見届けると、
眞田さんは、私を軽々と抱きかかえてしまう。
ビルを急出て、路駐していた車に乗り込み、急発進で走らせた。
「とりあえず、免停くらってでも、MIHOさんを本番までに連れてくるように言われました。」
みぞおちと顔の痛み、濡れたシャツのせいで寒くて仕方なかったけれど、
「………どうして、あの場所を?」
薫と眞田さんがくれたチャンスを無駄にしたくなくて、
かなりフラフラなのも知られたくなかった。
「薫社長が、最近頻繁に侵入してくるハッカーの存在を突き止めたんです」
………………痛みからくる吐き気が、
頭を強く打った沖田くんの容態を、より一層心配なものだと、私に認識させる。
彼は、
もしかしたら
孤独なハッカーだったのではないかと、
それに似た闇を、
既に経験した私の脳が、
小さな同情を生み出していた。
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