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「病院側が許可したんですか?」
「いや、付き添っている会長がだよ」
真優の振り撒いた硫酸の滴が、
薫のお父さんの片目に入ってしまったらしく、
ほぼ視力を失ってしまったらしい。
その事もニュースで報道されていた。
「MIHOも安静の身なんだから、短時間でね」
そう言って私を支え起こす角野さんが、沖田くんに目をやり、
「え………と、友達?」
少し困った顔をしていると、
「速鷹さんに、俺も会いたいです。」
と、
スリッパを置いたりドア開けたりして、
移動を補助してくれた。
「……………こ、こんばんは」
__″集中治療室″_″面会謝絶″
この重々しい言葉が、薫の容態を物語る。
入り口にいた薫のお父さんに、
なんと言葉をかけてよいかわからないまま、
入室を躊躇っていると
「親子といっても、血の繋がらない私が会えるんだ、入って顔を見て貰っても平気だよ。今夜がヤマだと言われてるし。
それでもやって来る身内も親戚も、
薫にはいないから」
ただのモデルの私に、
養子だった薫の孤独さを、さりげなく伝えようとする。
「………はい」
角野さんは、
中には入らずに、廊下で会長と今後の話をしているようだった。
薄暗い部屋に、
頭上の装置の電子的な音だけが響き渡る。
「薫………」
頭と耳と頬に、
火傷のための手当てが施されていたけれど、
意識のない薫は
キレイなマネキン人形みたい。
「早く目を覚まして」
目を覚ませば、
ツラいことや、
大変な事が待ち受けているかもしれないし、
私の事を
忘れてしまっているかもしれないけれど、
それでも
「薫がいなきゃ、
私は、キレイになんかなれない」
どんなあなたも、大好きだから___
「………………目を覚まして」
無傷の薫の手をギュッと握り、ただただ、
その蘇生を願った。
「兄さん」
そんな、私の横に、沖田くんが並ぶ。
………………え?
彼が発した言葉に驚いてその顔を見上げると、
とても、
穏やかな顔をして、笑っていた。
「やっと、
戻ってきてくれたね」
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