0 天才の死

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「俺、もう嫌だ。 何も描きたくない」 大きなキャンバスの前に立ち、そう呟く。 色鮮やかなその絵にそっと触れる指先。 これ以上は、俺は。 「もうやめる」 俺の絵。 皆が『稀代の天才』と持て囃す俺の、 たった1つの取り柄、だった。 左手の中でキリキリ、と鳴るカッター。 ちゃんと切れてくるだろうか。 「……バイバイ」 絵の具の臭いも、 キャンバスの肌触りも、 握りこんだ筆の感触も、 賞賛の声も、 いらない。 躊躇なく右手首に押し当てたカッターの刃、鈍い痛みと流れ出す真っ赤な鮮血。 腹立たしいほど、綺麗な赤。
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