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「俺、もう嫌だ。
何も描きたくない」
大きなキャンバスの前に立ち、そう呟く。
色鮮やかなその絵にそっと触れる指先。
これ以上は、俺は。
「もうやめる」
俺の絵。
皆が『稀代の天才』と持て囃す俺の、
たった1つの取り柄、だった。
左手の中でキリキリ、と鳴るカッター。
ちゃんと切れてくるだろうか。
「……バイバイ」
絵の具の臭いも、
キャンバスの肌触りも、
握りこんだ筆の感触も、
賞賛の声も、
いらない。
躊躇なく右手首に押し当てたカッターの刃、鈍い痛みと流れ出す真っ赤な鮮血。
腹立たしいほど、綺麗な赤。
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