3 見学

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「オッケーやって、入り。 中ではあんまり騒がんように、あとそこで靴脱いでな」 「あ、はい、ありがとうございます……!」 「俺じゃなくて部長にお礼言いや」 荒神先輩のおかげで人生初、弓道場というものに足を踏み入れることができた。 いそいそと靴を脱いで荒神先輩の後に続く。 なんか、不思議な建物だ。 特有の乾いた木の匂いと、足元は踏み締める度に少し軋む板敷き。 もちろん屋根がかかってるけど、それは更衣室と掲げられたドアのある方だけで。 更衣室を背にすれば、屋根や壁もなく開けた前方にいくつもの的が見える。 そ、そして何より……。 「かっ……こいい……」 的に向かう部員たちの装いが、壮観だ。 和服っていうか、何て言う名前なんだ?袴? 上は白、下は紺色で全員統一されてて、すごくかっこいい……! 「荒神、そいつが転入生?」 「せやでー」 長くて大きな弓を片手に、荒神先輩に話しかける人が一人。 荒神先輩と並ぶとさすがに劣って見えてしまうけど、この人も中々のイケメンだ。 さっき言ってた部長さんかな? 「あの、部活中にすみません。 部外者なのに」 「いいよいいよ、見学くらいなら。 もしかして弓道部志望だったりする?」 「いや……そういうわけではないんですけど……」 「そう?残念」 「初心者でも大歓迎なんだけどなー」と笑う部長さん。 そんなこと言われたらちょっと揺らぐ。 弓道、めっちゃかっこいいし。 でもな……うーん、ここで即決しなくてもいいか。 まだまだ時間はあるしな。 そうだ、写真って撮ってもいいかな? ブレザーのポケットにデジカメ入れたままなんだけど。 ちゃんと訊いてから撮ろう、と思ってポケットの中のデジカメを手に取ったその時。 パァンッ と、何かが弾けるような音がした。
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