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聞いたこともない音に思わず身体がビクついた。
「ちょ……何してくれてんだアイツ」
顔をひきつらせた部長さんの視線の先には、真剣な表情で的に向かう部員の姿……ではなく。
弓を構えた荒神先輩。
いつのまにか俺の隣から消えていたと思えば。
今の音、荒神先輩が?
「こら、お前らうるさいぞ!
部員でもないやつに勝手に弓引かせんな!」
目を輝かせながら「かっけぇぇぇ!」「さすが先輩」とざわつく部員達に喝を入れる部長さん。
部員達はその怒気を孕んだ声に静まり返るも、荒神先輩は悪びれる様子もなく笑っている。
手を保護するためのものだろうか、グローブのようなものと弓を近くにいた部員の一人に渡してこちらに戻ってきた。
「荒神、お前も勝手に何してんだ」
「だって俺の射が見たいって言うんやもん」
「バレたら俺が顧問に怒られるんだってば……!」
「悪い悪い」
絶対悪いと思ってないな、この人。
そう感じたのは部長さんも同じみたいで、深い深い溜め息を吐いた。
なんか、荒神先輩は自由人なんだなっていうのは分かった……うん。
……ん?
荒神先輩って弓道経験者なのかな。
弓の持ち方がやたらと様になってたし。
なんとなく目を向けた的には、荒神先輩が放ったと思わしき矢が黒い円のほぼ中央に刺さっていた。
すげー……これは経験者じゃないわけないな。
「ほら、お前らこっち見てないでいつも通り練習しろー!
転入生が見学に来てるんだからな」
部長さんの声に俺までハッとした。
慌てたように練習に戻る部員達。
俺も最初の目的を果たさねば……写真だ、写真。
まだ心なしか浮き足だった部員達の様子を険しい表情で見据えている部長さんに、恐る恐る声をかける。
「あのぅ……」
「ん?なに?」
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