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弓道部の邪魔にならないよう気を付けながら、弓道場の写真をバシバシ撮っていく。
こんだけたくさん撮れば姉貴も文句は言わないだろ。
「荒神先輩、ちょっと見てもらってもいいですかー?」
「おう、ええよー」
俺の隣で部活の様子を眺めていた荒神先輩が、数人の部員に引っ張られて行ってしまった。
なんだろう、矢を構えるフォーム?の指導かな?
弓と矢を持った部員の肘を動かしたり、足の位置を変えさせたり、細かく指示している荒神先輩。
よっぽど詳しいんだな。
っていうか、あの人バスケ部じゃないのか……?
弓道部員の中で一人赤いジャージ姿で浮いている荒神先輩も写真に納めた。
まぁ、ついでに。
ジャージ姿でダサいような気もするんだけどイケメンだし、弓を構える動作も綺麗で不思議と絵になる。
本当に何者なんだろう、この人。
あ、前生徒会長か。
荒神先輩の指導を受けた部員がスッと的を見据えた。
おっ、射つ瞬間撮れるかな。
出来れば手から矢が離れた瞬間が撮りたい。
デジカメを構え直してピントをしっかりと合わせようとしたその瞬間、背後でキィッと扉の開くような音がした。
あ、そういえばここ、更衣室の真ん前だ。
邪魔になる。
デジカメは構えたままで少し横に移動した、その時。
「――――――おい、転入生」
聞こえてきた、男か女かすら分からない高めの声。
一瞬背筋がぞわりと粟立ち寒気がした。
そして即座に振り返ったが、もう遅かった。
半分ほど開かれた扉、そこから伸びる手に腕を掴まれ――――俺は薄暗い更衣室へと引き込まれた。
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