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弓を変えてから調子が悪いって困っとった後輩への指導を終えて振り向いて見ると、転入生くんの姿がなかった。
確かにあの辺りにおったはずなんやけどな。
挨拶せんで出ていくような嫌なタイプには見えへんかったのに……。
んー?
よく見ると、転入生くんがいた辺り……更衣室の前に何か落ちとるのが目入った。
生徒証。
歩み寄って拾い上げれば、顔写真からして転入生くんの生徒証やってすぐに分かった。
菅井透真。
そういや、名前聞いとらんかったなぁ。
菅井くんの生徒証がここに……ってことは。
巡る思考の中であっさりと答えが出る。
「……こんなことするんはアイツらやろな」
生徒証に“アレ”仕込んであるの知ってんのかー、さすがというか何というか……無駄に悪知恵が働くヤツらや。
んで、相変わらず好き勝手やってチクチク言われてるんやろ?
難儀やなぁ。
思わず苦笑が漏れる。
「あれ、転入生は?
……ってなんだお前、生徒証なんて持って」
弓道部の部長の大久保が不審そうに眉をひそめながら声をかけてきた。
「転入生くんは『急用が出来た』言うて行ってもうたわ、あと『部長さんによろしく』って」
「え、マジか」
「おう。
んで、これは転入生くんの生徒証。
落としてったみたいやなー、後で俺が届けに行ったるわ」
「ふーん?」
心底興味なさそー。
ほとんど嘘なんやけどな、疑ってもないわコイツ。
さて、どうするか……1時間くらいは黙っといてやるかな。
「んじゃ、俺もそろそろ失礼するわ」
「おう、帰れ帰れ。
お前がいると皆そわそわするからいない方がいい」
「ひっどい言い草やなー!」
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