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生徒会室の隣、生徒会専用プライベートルーム。
薄暗い部屋の中でいくつものモニターが光る。
低い機械音だけが響く中、唐突に警告音が鳴り響いた。
「きょーちゃん、弓道場でロストしたよぉ。
校章の方の発信器」
「ロスト?」
「故障かなぁ?
強制スリープモードだって、なにこれ」
「マジか、生徒証の方に画面切り替えて」
「りょーかい。
あー、こっちは生きてるっぽいね……弓道場から移動中」
生徒会会計・轟が、モニターの前に座る少年へと指示する。
少年の癖っ毛気味のライトブラウンの髪はふわふわと楽しそうに揺れた。
間延びした少年の声とは裏腹に、モニターを見詰める轟の目は真剣で。
苛立ちを孕んでいるようにも見える。
「絶対故障じゃねぇだろーなぁ……。
篠宮、黒岡、常磐まで各地点でオールロスト。
美術部のクズ共のしわざで確定じゃん?
“コレ”も本人かどうか怪しいぞ」
モニターで光る赤い点の1つを指先でコツコツと叩く轟。
「じゃー、どうするの?」
「……転入生の“片方”は生きてるし、待機じゃね?
ふくかいちょーは『勝手に動くな』って言ってたしー」
「そっかぁ」
轟は納得がいかないような表情でモニターから視線を外した。
そんな轟をクスクスと笑いながら、少年は手を伸ばして轟の頬を撫でる。
まるで飼い猫を愛でるかのような仕草だ。
「きょーちゃん、ご機嫌ななめだねぇ」
「当たり前じゃん。
機嫌も気分も最悪」
ぶっきらぼうにそう言うと轟は少年の手にすり寄り、まるで誘うように妖艶に微笑んだ。
「だから……癒して、恋斗」
甘く掠れた声。
薄く弧を描いた唇。
その様子に、恋斗と呼ばれた少年は大きな瞳を愛おしげに細めた。
「優しくしてくれるなら、いいよ」
どちらともなく、2人の唇が重なる。
2人はまだ知らない。
全てが確実に動き始めていることに。
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