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「僕さぁ、騒いだらその舌引きちぎるって言わなかったっけ?
転入生」
「だ、だって……!
こんな状況誰でも騒ぎたくもなりますよ!
降ろしてください!
あとこの目隠しとってください!
っつーかどこに向かってるんですかっ?!」
「うるさいな……」
「ヒッ」
この有り得ないくらい理不尽な状況に至った経緯を説明するには、5分ほど時を遡らなくてはならない……!
* * *
遡ること、5分前。
弓道場で意気揚々と写真を撮っていた俺の背後で突然開いた、更衣室のドア。
そこから伸びてきた手に腕を掴まれ、更衣室の中へと引きずり込まれた。
盛大にバランスを崩して、俺は更衣室の床に……というか畳に尻餅をついた。
手にしていたデジカメもゴトッと低い音を立てて畳に落ちる。
そして、それだけじゃない。
俺の腕を掴んでいた手が俺の口を塞いだ。
背後に感じる人の体温をこんなにも恐ろしいと感じたのは初めてだった。
「騒いだらその舌引きちぎるから」
男か女かすら分からない声、の正体は。
声変わりもしていないような少年の声だった。
ドアが目の前でそっと閉まり、外からの光は遮られた。
突然のことで状況が飲み込めない上に、物騒なことを耳元で囁かれ、心臓はバクバクと警鐘を鳴らす。
「先輩、コイツ押さえておいてください。
僕がやるんで」
「ああ」
やるって、な、何を?!
少年の他にもう1人の気配を感じ、更に鼓動が速くなる。
この時はまだ、その先輩とやらの声に聞き覚えがあることにすら気付かなかった。
気付くことができたのは、少年の手が俺の口から離れてすぐさま別の手が塞いで……その顔が、俺を覗き込んだ時だった。
見覚えのある、口、鼻、目元、耳に光る大量のピアス。
あーーー!!!
なんだっけ、あれ、あの赤髪の人と一緒にいた、えーっと……、黒岡?!
黒岡鉄将先輩、だ!!
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