1 転校

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あんなに勉強して地元の公立高校に合格したのにもったいないなー、とか 7月に転校って微妙すぎるし絶対クラスで浮くだろ、とか せっかく雅紀と仲良くなったのにな、とか 俺でもそれなりに思うことは多々あって。 後ろへと飛び去っていく窓の外の景色を眺めながら、小さく溜め息が出る。 あーもう、こんなテンションになるくらいなら本読んでた方が良かった。 ちょっとそわそわする。 「雅紀、本読んでていい? ぶつぶつ言わないから」 「別にいいけど……もうすぐ着くぞ?」 「えっ」 「ほら、あの建物」 雅紀が指差した方へ目を向けると、すこし遠くに青色をした西洋風の屋根が見えた……けど。 なんかちっちゃくない?というか 「あれって教会じゃない?」 「そうだよ、教会。 高校の敷地内にあんの、その手前が校門な」 ひぇぇ……マジか。高校に教会って。 そういえばパンフレットにも書いてあった気がするけど特に気にしてなかった。 「雅紀に付き添ってもらって良かったわー、この調子で校内も案内してね」 「あー面倒くさー」 「とか言いつつ、付いてきてくれる雅紀であった。めでたしめでたし」 「めでたくねぇよ」 茶化して言うけど、本当に感謝してるんだよね。 どう考えても一人でこんなところ来れないし。 タクシーで1時間半とか遠すぎ、道もわからん。 それに、一人で来れたとしてもこんなに気楽にいられなかったと思う。 雅紀がいるおかげで、タクシーの運転手さんまで笑っちゃうくらいヘラヘラしてられるし。 従兄弟がこの高校出身だとかで、何度か来たことのある雅紀に付き添いをしてもらえたのは、本当に有り難い。 4月に知り合ったばっかりなのにこんなに優しくしてもらっちゃっていいのかね。 「付き添いなんて昇降口まででいいだろ?」 「……せめて職員室までにして」 投げやりだなぁ、オイ。 やっぱりあんまり優しくないわコイツ。
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