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「はぁい、来ましたよ」
誰に向けたものか分からない、不機嫌そうな少年の声。
それに続いて、ガラリ、と滑りの悪い扉の音がした。
ど、どこに来たんですかね。
「きたー!
菅井くーん!!」
予想していた通り、聞き覚えのあるハイテンションな声が鼓膜を揺らす。
そして俺が声を出す間もなく、俺を担いでいた腕が緩んでそっと黒岡先輩の肩から降ろされた。
尻餅をつくような形で降ろされた場所は、感触からして多分室内だとは思うんだけど。
すぐさまアイマスクを取ろうと顔に手をやったが、誰かの手がそれを邪魔した。
「さっきぶりー!」
誰かの……というか、篠宮先輩の手で明るくなった視界。
目の前にはあの真っ赤な髪のイケメン、篠宮先輩が。
床に座る俺に合わせてしゃがみこみ、超ご機嫌そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、あの」
「んー?」
え、えー……どうしよ。
上手いこと逃げる、とりあえず現在地を聞く、一応話を聞く。
いくつか選択肢はあるけど、どれが最善だ?
橋本副会長からは「関わらなくていい」的なこと言われたし、そりゃ俺だって進んで関わりたくないんだけどさ。
この状況を誰が回避できるんだよ!
「愛斗、ドア閉めてー?
鍵もな」
「はい」
あっ、あ゙ー!退路が……!
考えているうちに、無情にも締められるドアの鍵。
しかも少年がドアの前に立ち塞がるように陣取ってしまった。
そこで周りを見て、初めて気付く。
ここ、教室だ。
多分使われていない空き教室。
見慣れた形の黒板、使われずに積み重ねられた机や椅子が端に寄せられている。
教材か何かが詰められているのだろう段ボールもいくつか乱雑に置かれていた。
俺が入ってきたのは、外へと繋がるドアだった。
この教室にはもう2つドアがあるけど、片方は机や段ボールが邪魔で開きそうにない。
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