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逃げるならもう片方の、教室前方にあるドアだな。 とりあえず冷静にならなくちゃ。 相手の出方を見るのが先だ。 「もしかして、どこから逃げるか考えてる? 前のドアなら開かないよ」 思わずギクリとした俺に、「なんか壊れちゃってるんだよねぇ」と目を細めて篠宮先輩は笑った。 ヤバい。 俺の考えてること読まれてんじゃん。 もう最悪、嫌な汗が出てきた。 マジでどうしよ……っ。 「そんなに逃げようとしなくてもいいじゃん、何も怖いことないよー? ほら、俺って超良い人だし!」 「どの口が言ってんですかね……」 「愛斗くーん? 今はそういうツッコミいらないから」 「はいはい」 ものすごく失礼だとは思うけど、篠宮先輩はどこをどう見ても良い人には見えない……ただのヤンキー。 ヤンキーじゃないとしてもキチガイなのは間違いないだろ。 一刻も早く逃げたい……! 何のために連れてこられたんだよ、俺?! 「とりあえず座って話そうか。 床に座ってんのも嫌いじゃないけどねー?」 「茜、椅子」 「おー、てっちゃん気が利く!」 立ち上がった篠宮先輩は黒岡先輩から、積み重ねた山から持ってきたらしい椅子を受け取る。 前の学校でも使っていたような普通の椅子。 ところどころ錆び付いたそれに、篠宮先輩は脚を組んで座った。 ……え、偉っそうな態度。 「菅井も」 「座れ」とでも言いたげに、篠宮先輩の目の前に椅子が置かれた。 俺が床に座っているせいだろうけど、黒岡先輩の目が迫力があって怖い。 見下ろされてると言うよりは見下されてる気分……っ。 これって座るべきなの? なんか逃げるチャンスが無くなりそうなんだけど。 「なにボケーっとしてんの、面倒くさいな……。 早く座れよ転入生」 「ひっ!」 愛斗(まなと)、と呼ばれていた少年の脅すような一声に俺は慌てて椅子に座った。 座ってしまった……うわぁぁぁあどうしよう。
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