4 勧誘

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「まぁ、それは別にどうでもいいや。 で、美術部に入るんだよね?」 「…………いや、その」 濁してばっかりじゃダメだ、ハッキリ言わなきゃ。 今後の高校生活に大きく関わることなんだから……言うぞ、よし言うぞ! 入るつもりはありません、入るつもりはありません……! と、心の中で必死に決意を固めていたその時。 『ところでさぁ、菅井くん』 『はい』 『美術部に入部するよね?』 『はい……』 俺の声と篠宮先輩の声で、聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。 声のした方に目を向ければ、スマホを操作する黒岡先輩の姿が。 あ、そういえば録音、されてたんだっけ。 「ほら、ねっ! 入部するって言ったもんね。 入るんだよね?」 「ええぇえ……?」 ええぇ……ちょっと待ってくれ。 強要されてる気がするというか、脅されてる気がするというか。 笑顔の奥に謎の必死さが感じられて、なんか怖い。 せっかく固めていた決意が崩れていく。 夏の暑さのせいではない、嫌な汗が額を滑り落ちた。 「……入部、するよね。 菅井くん」 はい、と言ってしまいたくなるような静かな問い掛けに変わった。 僅かに訪れる沈黙、注がれる3人の視線。 俺は汗ばんだ両手をギュッと握り締めて。 「…………入部し、ま、せん……っ」 蚊の鳴くような小さな声で、ようやく答えることができた。
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