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っていうか、轟先輩のにおいって。 そういえばあの人、結構香水キツかったっけ。 でもずっとそばにいたわけでもないし……一応着替えたんだけど。 普通はにおいなんて残ってなくない? この人の嗅覚どうなってんの? 「……篠宮先輩、においとか気持ち悪いんですけど」 「しょーがねぇだろ? 嫌なにおいには敏感になるもんなんだよ」 「何にせよキモいです」 「ハハッ」 嫌悪感を隠そうともせずに顔を歪める少年に、篠宮先輩は渇いた笑いを漏らした。 さっきまでのどこか剣呑とした雰囲気が薄らいだ気がする。 でも怖いもんは怖いし、野生の本能みたいな何かが油断するなと呼び掛けている。 「……茜」 ずっと黙ったままだった黒岡先輩の呼び掛けに、篠宮先輩の手が俺から離れた。 「どーした、てっちゃん」 「“犬”が来た」 「……マジかよ」 篠宮先輩と少年の顔色が変わった。 ……犬? 犬って、耳と尻尾とふさふさ感が可愛い、あの犬? なんでそんなに動揺してるんだ。 この部屋にいる全員が意図的に口を閉ざして訪れる、静寂。 微かに、だけど確かに聞こえるのは地面を踏み締める足音。 その足音は段々と大きくなってきて、近付いてくるのが分かった。 「外からかよ……逃げんのは無理だな。 愛斗、そこのドアの鍵開けろ」 「……なんでですか」 「他のドア開かねぇし、籠城戦なんてカッコ悪いだろ? 真正面から乗り込ませんの」 「…………」 何言ってんだ、この人達。 少年はあからさまに嫌そうに、だけどどこか怯えているように鍵を開けた。 小さく響く金属音。 わけの分からない、誰も説明してやくれない最悪な状況の中。 篠宮先輩が楽しそうにギラギラした瞳で笑っていることに、ものすごく嫌な予感が押し寄せてきた。
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