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「やだってよ? そりゃーこんなヤツらの所になんて行きたくないよな、菅井くん」 「え、う、わ……っ!」 篠宮先輩に腕を掴まれて無理矢理椅子から立たされた。 そ、それはいいとして何故腰に手を回す必要があるのか……! ものっすごく放してほしいっ、今すぐ! とは思っていても口に出せる雰囲気じゃない。 至近距離にある篠宮先輩の体温に震えながらも、俺は仕方なく押し黙った。 「えー、なんで?」 「菅井くんは美術部に入るんだよ!」 まるで拗ねた子供のように口を尖らせる少年に、篠宮先輩は意気揚々と答えた。 えっ、何言っちゃってるのこの人。 入りませんってば。 挙げ句の果てには「てっちゃん、再生お願いしまーす!」なんて言い出して、またあの音声が再生された。 それを聞いて少年はますます拗ねた顔になる。 「なにそれぇ……。 加工済みの音声じゃないっていう証拠は? 暴力で脅して言わせたわけじゃないっていう証拠はぁー?」 「ゔっ……」 「無いの? なら転入生くん返してよー」 少年は「僕怒っちゃうよぉ」なんて頬を膨らませたけど、迫力が皆無。 というか、その少年よりも後ろに控える“犬”の方々が先にキレ始めそうだ。 指パキパキ鳴らしてる人いるよぉぉぉ……やる気だよこの人達。 少女マンガなら『私のために争わないでっ!』みたいなシーンなのにな。 悲しいかな、一部を除きやたら体格の良い不良だらけ。 しかも取り合いされてんの俺だし絵面最悪。 泣きたい。 むしろちょっと泣けてきてる……。 「うるせぇ、返さねーからな! 菅井くんを生徒会には渡せねぇ理由はまだある!」 「理由ってなにさぁ」 「それはな……コレだっ!」 篠宮先輩の指先が俺のワイシャツの襟を、数分前と同じように引っ張った。 「この首筋にあるキスマーク!」 「ぅわ、ちょ、やめてくださ……っ!」 「生徒会会計、轟恭哉が菅井くんを襲ったという証! まさに生徒会にあるみゃっ……あるまじき不祥事!」 盛大に噛んだぞこの人……じゃなくて! こんな大勢の前でなに勝手に俺の人生の汚点を晒してくれてんだよ! やめてくれ死にたい!!
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