5 紛失

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……ちょっと待って。 さっきまでの話の流れでいうと……また轟先輩に会わなきゃいけないの? えっ、スッゴい嫌だ。 嫌な予感というか面倒な予感しかしない。 会いたくない。 「もしもーし、きょーちゃん? あのね今、転入生くん保護して食堂行こうかと思うんだけどねぇ、きょーちゃんも来な……っおわ、なに?」 唐突に立ち止まった俺に、不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。 「どうしたの?」 少年の電話の向こうからも微かに『どうしたー?』と、聞き覚えのある轟先輩の声が聞こえた。 轟先輩に会いたくない、とか言ったらさすがに失礼かな。 でも会いたくないんだよ。 俺は何も言わずに首を横に振った。 すると少年は「ふむふむ」とわざとらしく呟いて何度か頷いた。 「きょーちゃんの顔なんか見たくねー、ヘドが出るぜ!だってぇ」 『おい、嘘つけ』 「ウソウソ、きょーちゃんイケメンすぎて会いたくないって」 『お前なぁ……それも嘘だろ』 「ふふふっ」 ……仲良さそうだな、おい。 「やっぱいいやー、食堂行くのやめようか。 もう疲れちゃったもんねぇ? 寮に送っていってあげるよー。 だからきょーちゃん、テキトーにお弁当買ってきてくれない?」 『おー、分かった。 寮まで持ってけばいいってことー?』 「そうそう。 じゃ、よろしくねぇ」 早々と通話を終わらせてスマホをしまう少年。 なんか今の会話聞いてて、なんとなくだけど……この2人の喋り方が似てる気がする。 間延びしたユルい口調。 さっきまで鼻水でグズグズしてた鼻をすすれば、においまで似ている気がした。 甘ったるくて鼻に残るような香水のにおい。
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