5 紛失

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「ほらほら、寮行こ。 あんまり出歩いてるとまた変な人に絡まれるかもしれないからねぇー」 俺に同意を求めるように首を傾げて、少年はまた歩き始めた。 俺も引きずられるように足を進める。 絡んだままの腕、俺よりほんの少し低い身長。 やっぱり轟先輩と同じ、甘いにおいがする。 「転入生くん、名前なんてゆーんだっけ?」 「……」 「ねぇねぇー」 「…………菅井透真です」 「とーま?とーまくんね!」 ふわふわと猫っ毛を揺らしながら「とーまくん」と無邪気に笑いかけてくる。 なんか、甘え上手な猫みたい。 これが女の子だったら可愛いのに……と思ってしまう見た目と雰囲気。 しかし悲しいことに、俺の腕に当たっているのはまっ平らな男の胸である。 「僕はねぇ、小鳥遊恋斗(たかなし れんと)っていうのー。 仲良くしてね?」 篠宮先輩達と一緒にいた少年の名前は、確か愛斗じゃなかったか? 似てる名前。 やっぱり双子か、それじゃなくても兄弟かな。 ……その後は黙りこくる俺を気にすることもなく、小鳥遊くんは楽しそうに喋り続けていた。 自分は生徒会の書記だとか、 生徒会では唯一の1年生だとか、 きょーちゃん……轟先輩は絶対デミグラスハンバーグ弁当を買ってくるだろうとか。 そして、特に誰に会うでもなく俺達は寮の自室に辿り着いた。 同室人はまだ戻ってきていないようだった。 「今日はもう出歩いちゃダメだからねぇ? 僕はこの後やることあるしー、生徒会だっていつでも助けに行けるわけじゃーないんだから」 俺だけがぐいぐいと部屋の中に押し込まれて、今日はもう寮から出てはいけないと念を押された。
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