5 紛失

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そしてちょうど轟先輩がやって来たらしく、小鳥遊くんを介して弁当の入ったビニール袋を受け取った。 ドアと壁のせいで轟先輩は声しか聞こえないけど。 「きょーちゃんはとーまくんに会っちゃダメー」 「なんでだよ、意味わかんねぇ」 「後で話すから。 じゃあまたねぇ、とーまくん」 無邪気な笑顔で手を振る小鳥遊くんに、一方的に閉められるドア。 2人で話す声と足音がだんだんと離れていった。 俺は何の躊躇もなく内側から鍵をかけてから、靴を脱いで部屋に上がった。 「っあ゙ーーー」 今ものすごく死にたい。 「っあ゙ーーーーー…………もう!! 死にたいな?! 死なないけど!!」 よくよく考えたら、いや、よくよく考えなくても今の状況が情けないしカッコ悪いし……! 何なのコレ、すごい死にたい。 それに今ものすごく鏡を見たくない。 首咬むって何。 男の、しかも今日会ったばっかりで初対面同然な相手の首って。 意味わかんねぇぇぇ! いや、わかりたくもないけどさ! あーもうやだ、色々やだ。 元の高校に帰りたい……家に帰りたい……。 姉貴の薄い本とフィギュアに占領されてる家すら恋しい…………あっ。 待って。ヤバい。 姉貴のカメラ、どこいった?! 慌ててポケットに手を突っ込むも、出てきたのは使い慣れたガラケーだけ。 ない、ない……ない!? 落ち着け俺、思い出せ。 弓道場では写真撮ってたよな、んでそこから美術部の人に……手に持ってたカメラは。 必死に記憶の引き出しを開けていく。 そしてゴトリ、と畳の上にカメラが落ちる音がしたことを思い出した。 「更衣室に、落としてきた……?」 ヤバい。 いくら型落ちしたデジカメだからって貴重品は貴重品、決して安くはない。 もし壊れてたら?盗まれてたら? 中のデータが消えてたら? ……姉貴に殺されるビジョンしか見えない。 ど、どうしよ。
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