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確認の意味も込めて制服のポケットを叩く。
あるのはやっぱりガラケーと、寮の鍵と財布。
一番あってほしいカメラの固い感触がどこにもない。
うわーどうしよ……誰か親切な人が拾ってくれてたりしないかな。
拾得物って職員室とかに届けられるはずだし。
可能性はなくはない、よな。
うん、よし、焦っても絶望してもしかたない。
希望は捨てないでおこう。
明日は職員室行くんだし、その時にでも訊いてみれば……あっ、生徒証もじゃん!
思いっきり放り投げられたよ!
っていうか、どれもこれも美術部の人達のせいじゃねーか!
「はぁぁぁ……」
深呼吸にも似た大きな溜め息。
最初から関わらなければよかった。
もう過ぎたことだし、あっちから絡んできたんだから後悔しても意味ないな。
なんかもう色々と疲れたしご飯食べて寝ちゃおうか。
「弁当買ってきてもらっちゃったし……」
ガサッ、とビニール袋の中を覗けば、小鳥遊くんが予想した通りのデミグラスソースハンバーグ弁当が入っていた。
……美味しそう。
決めた。食って寝る。
睡眠ほど現実逃避に最適なものはない。
さっさと食って明日に備えて寝る、これが今思い付く最善。
部屋の中心にある控えめなサイズのテーブルに弁当を置いて、そえられていた箸とフォークもビニール袋から取り出した、その時。
ガチャガチャ、とドアノブが回る音がした。
突然のことに身体が強張る。
恐る恐るドアの方を振り向けば、今度はトントンとノックする音が耳に届いた。
「おーい、菅井くーん?
おるんやったら開けてー」
聞き覚えのある声、特徴的なイントネーション。
即座に思い浮かんだのはあの、驚くほどに整った容姿の先輩だった。
えーっと名前なんだっけ。
荒神、先輩?
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