5 紛失

6/15
前へ
/95ページ
次へ
確認の意味も込めて制服のポケットを叩く。 あるのはやっぱりガラケーと、寮の鍵と財布。 一番あってほしいカメラの固い感触がどこにもない。 うわーどうしよ……誰か親切な人が拾ってくれてたりしないかな。 拾得物って職員室とかに届けられるはずだし。 可能性はなくはない、よな。 うん、よし、焦っても絶望してもしかたない。 希望は捨てないでおこう。 明日は職員室行くんだし、その時にでも訊いてみれば……あっ、生徒証もじゃん! 思いっきり放り投げられたよ! っていうか、どれもこれも美術部の人達のせいじゃねーか! 「はぁぁぁ……」 深呼吸にも似た大きな溜め息。 最初から関わらなければよかった。 もう過ぎたことだし、あっちから絡んできたんだから後悔しても意味ないな。 なんかもう色々と疲れたしご飯食べて寝ちゃおうか。 「弁当買ってきてもらっちゃったし……」 ガサッ、とビニール袋の中を覗けば、小鳥遊くんが予想した通りのデミグラスソースハンバーグ弁当が入っていた。 ……美味しそう。 決めた。食って寝る。 睡眠ほど現実逃避に最適なものはない。 さっさと食って明日に備えて寝る、これが今思い付く最善。 部屋の中心にある控えめなサイズのテーブルに弁当を置いて、そえられていた箸とフォークもビニール袋から取り出した、その時。 ガチャガチャ、とドアノブが回る音がした。 突然のことに身体が強張る。 恐る恐るドアの方を振り向けば、今度はトントンとノックする音が耳に届いた。 「おーい、菅井くーん? おるんやったら開けてー」 聞き覚えのある声、特徴的なイントネーション。 即座に思い浮かんだのはあの、驚くほどに整った容姿の先輩だった。 えーっと名前なんだっけ。 荒神、先輩?
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加