5 紛失

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「ええよええよー、なかなかええ勘してるやん菅井くん!」 「ぅえ、わっ」 何故かつむじから髪をかき混ぜるように、わしゃわしゃと頭を撫でられた。 非の打ちようがない、人のいい笑顔。 だけど何かとてつもないものを隠しているような、そんな得体の知れない笑顔だ。 「でもなぁ、勘はええのに警戒心が足りてないんちゃう? なおさら生徒証大事にしとき。 せっかくGPSついてるんやから」 「え、GPS……え?」 「去年から生徒会が導入してん、校内限定のセキュリティーの1つ。 一部の人間しか知らん情報やから内緒な」 え、え、なに? ちょっと急になに言い出したのこの人。 話についていけない。 「男に喰われたくなかったら、自己防衛。な?」 意味深に目を細めた荒神先輩。 男に食わ…………食われっ?!! 「はっ?!!」 思わず、あの咬み痕を……もう服に隠れているそれをさらに隠すように、俺は首元を手で覆った。 「あ、やっぱり首になんかされたん? 上までピッチリ閉めとるからおかしいと思ったわ」 荒神先輩はやけに清々しい笑みを浮かべると「まぁ、ドンマイ!」と親指を立てて見せた。 どうしよう、全然意味がわからない。 なんだこの人。 「な、何なんですか一体……」 「何って、俺のこと? あー……そういえば自己紹介しとらんかったな。 俺は荒神政宗(こうじん まさむね)。 荒ぶる神で荒神に、伊達政宗の政宗。 元生徒会長で……っていうのは言ったな」 フルネームが知りたいって意味で言ったわけじゃないんだけどな……。 でも、自分で言っておいでおかしいかもしれないけど、何が知りたくて言ったのかわからなかった。 この人は何者なのか、何をどこまで知ってるのか。 そういう簡単な問いじゃ片付けられない。 この人は一体何なんだ。 「俺、お人好しやねん。 困ったこととか訊きたいこと……“生徒会にも言えない”ようなことがあったら、遠慮なく俺んとこ来ぃや」
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