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◇◇◇◇◇
あれは、私が元服もしていない幼い頃…
宮中に参内(サンダイ)する公達(キンダチ)や、宮仕えの女房達が話す内容が 何についてであるかも理解していなかったが、いつも気になっていた事があった。
昼間は暇を持て余していた者達が 月が昇る頃になると生き生きとし始める。
夜は寝るだけ、と思っていた幼い私は 彼らが 夜歩きをする理由に興味を持った。
夜は 魑魅魍魎が 跋扈(バッコ)する妖の世界…
悪鬼羅刹の類が 手ぐすねを引いて我等を喰らおうとする恐ろしき場…
陰陽寮に仕える陰陽師達は、いつも そう言っていたのに。
実は…そんな事は嘘で、夜の世界とは 誰もが心踊る桃源郷の様な世界なのではなかいか、と…
幼い私は 抑えがたい好奇心に、日々胸を膨らませていった。
自分も夜歩きをしたい…
元服など待たず、今直ぐにでも 夜の世界を見てみたい…
そんな思いを 胸に秘め平穏な日々は過ぎる。
思えば願いは 叶うらしい…
私は 念願叶って夜の世界へ飛び出す事となる。
──そして、
その夜の世界で貴女に出逢ったんだ…
何よりも得難い桜花の君……貴女に。
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