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時間を遡る事、14時間前
パートの仕事を終えた若葉が晩御飯の準備をしていると、恋人である小林慶喜(28歳)が帰って来た
ペンキ屋の作業着であるニッカポッカは多彩な色が滲んでおり、それは彼が頑張っている証拠でもあった
安定しない給料ではあるが、毎日早起きをして出掛ける慶喜を、若葉は誇りに思っていた
「お疲れ
今日はカツ丼だよ」
「お、マジ?
3杯は食うよ」
子供の様な無邪気な笑顔を見せる慶喜であったが、その顔は少し影が掛かっている様にも思えた
違和感を感じた若葉は何気無く尋ねてみる
「何か元気なくない?」
心配そうに投げ掛けた質問に、慶喜は咥える煙草に火を灯して小さく頷いた
「うんー…仕事クビになっちゃった」
「………は…?」
「ごめんね」とつけ足してまた笑みを溢す慶喜に、若葉はさえ橋を水場に落とす
危機感を感じないその態度は、怒りを沸点に沸き上がらせるには充分だった
彼女は油の火を止めて、ノウノウと煙草を吸い続ける慶喜に向かってテーブルの上に手を叩いた
「何で普通なの?
どうしようとか思んないの?」
「思ってるけど…何とかなるって」
口癖まで披露して促す様に笑う慶喜に、若葉は首を横に振りながら声を荒げた
「何とかなるって、ならないよ!?
あんたはいっつもそうやって物事から逃げてばっか成長しない!!
この前だって上司と喧嘩してクビになったのに…!
学習しなよ!!
あんたのその性格にはウンザリする!!
…っ、この先だって、あるのに…っ!!」
「…ごめん」
歯を噛み締めた若葉の前で、慶喜は延びた煙草の灰を見つめながら謝った
しかしその態度にさえ怒りを上昇してしまい、若葉は涙ながらに言った
「あんたがこのままなら、…別れるから」
若葉を見上げた慶喜の顔は悲しみに眉を潜める
彼女はそれでも堪えきれず、寝室に籠ったのだった
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