卒璽―suddenly―

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仕事を終えた若葉は早足に家へと向かっていた 近くのスーパーで買った食材を入れる袋は、若葉の足に擦れてカサカサと揺れる それでも先を急ぐ若葉の心境は、慶喜が戻っているかも知れないと言う期待であった …しかし 家へ辿り着いた若葉が玄関を開けて真っ先に目に入ったのは、見知らぬ幾つかのローファー 更に寝室からは複数の人間の声が聞こえてきていた 「…慶喜…?」 硝子戸を引いたその先に居たのは、テレビゲームに夢中になる高校生の慶喜と制服を着た若い女達 知り得ない顔をこちらに向けては、女達はキャッキャッと笑った 「ねー、オバサン入って来たんだけどー 誰なん?」 汚ならしいグロスいっぱいの唇が、慶喜の頬に擦り寄る 少年は咥える煙草の煙越しに一瞬だけ若葉に視線を移したが、直ぐに画面へと移し変えた そして言った 「家政婦のババア …腹減ったからとっとと飯作れよ」 その声は、あまりに無慈悲であった .
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