【3】

5/19
前へ
/313ページ
次へ
 「ビジネスホテルに近付いたら、4、5、6階から噴き出すように真っ黒な煙と炎が吹き出していた。 7階の屋上にも煙が上がってきている。 消防車の梯子車が、スルスルと7階の屋上まで伸びていて、数人が降りて来ていた。 『キャー』 誰かが悲鳴をあげた。 『ドサッ』 梯子を降りている人が、気を失ったのか 落ちて来たんだ。  てっきり屋上にいるもんだと思っていたら、梯子車から降りてきた中には、あんたはいなかったので、 『まだ中に人がいますか?』 助け出された人に聞くと、 『煙に巻かれた人が、沢山いる』 と言う事だったよ」 「犠牲者は出たんですか?」 「25人犠牲者が出たんだよ。 そして、その中の5人が性別が分からないほど、焼け焦げていたらしい。  それで、その5人の中にあんたがいるかも知れないと思って、さっき警察に行って来たんだ。 すると全て身元が判明したと言う警察の発表があったので、俺はまるで煙に包まれたみたいな感じがしたよ」 「あのぅ、“あんた”って言う呼び方は、やめてもらえませんか。本宮って名前があるんですけど……」  「あっ、ごめんな。 本宮さん。 昔からの知り合いみたいな感じがして……」 「あっ、所長。 私は昔からの知り合いだと思っていました。 所長は気を許した相手しか“あんた”って呼ばないのよ。 私も、まだ呼んで貰っていません」 「藤井さん。 馬鹿な事を言ってはいけないな。ここは職場なんだから」 「はい、はい、分かりました」 「はい、は一つで良い」 「了解」 舌をペロッと出して呟いた。  「本宮さん。こんな社員を抱えている 私の身にもなって……」 苦笑いしながら市川が言った。
/313ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8179人が本棚に入れています
本棚に追加