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「本宮さんは、あのホテルから、どのようにして脱出したんだ?」
「私にも分からないんです。
朝、自分のベッドの中で目覚めたんですが、どのようにして家に帰ったのか、全く昨夜の記憶が無いんです。
それで、昨夜の事を聞こうと思って此処に来たんです。
だから火災の事も、今はじめて知ったのよ」
「そうだったのか?
不思議な事があるもんだ。
ところで、何処までの記憶があるんだい?」
「タクシーに乗った所までの記憶しか無いです」
「そうか。 それは困ったな……。
目覚めた時、何か変わった出来事は?」
「関係は無いと思うのですが、悪夢にうなされていたわ」
「悪夢?
その内容を覚えているかい」
「ええ、見知らぬベッドで寝ていて、奇妙な音で起こされたのよ。
私は何事かなと思い、ベッドから起き出してソロリソロリと忍び足でドアに近付いたの。
すると
『ドーン』
と湿った音が聞こえる度に、ドアが凹凸に歪むんです。
その内に、ドアの歪みが人の顔に似てきたのよ。
すると、にゅーとドアを突き抜けて顔面が半分崩れた化け物が、次々と現れた。
私は悲鳴をあげながら風呂場に逃げ込んだんの。
そんな夢……」
「その後は?」
「うっすらと靄(もや)がかかったみたいで思い出せないわ」
「もしかしたら、記憶に残っている物は夢では無いかも……」
市川が眉間に縦縞を刻みながら、そう言った。
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