【3】

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市川は上から下まで紫で統一していた。 スーツは薄い紫、ネクタイも靴も紫だった。 不思議に紫は市川に似合っている。 「市川さんて紫が好きなんですね」 「あぁ、これは裏の仕事着ですよ。 紫は私の霊力をアップするんです」 「そうなんですか。知りませんでした」 「普通の人には縁の無い世界ですから、知らなくて当然ですね」 市川は紫色の鞄の中から白い和紙を出した。 次にハサミを胸のポケットから出した。 『クスクス……』 「何か可笑しいですか?」  「いえ、ハサミも紫だと勝手に思い込んでいた自分が可笑しくなったんです。気にしないで下さいね」 「そうでしたか……」 白い和紙が、ハサミでジョキジョキ細かく切り込まれる。 切り込まれた和紙を左手の中に収め、市川はハサミを胸ポケットに戻した。 そして左手を口の前に持ってゆく。 市川は左手をユックリ開き、口をすぼめて 『フゥー』 と息を吹き掛けた。 フワァーと紙吹雪が螺旋状の様に部屋に舞う。 紙吹雪を目線で追っていた明菜が突然、眼をパチクリとした。
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