【3】

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今、降りた車両の真ん中の席で、光一が見知らぬ女性と腕を組んで、まるで恋人のように見えたからだ。 やっぱり市川さんが言ってた事は本当だった。 二人の姿を目撃するまでは明菜は半信半疑だった。 女と目線が合った。 見知らぬ女だった。 化粧がどぎつい。 女がニヤリと明菜を見て邪悪に笑う。 明菜はゾッとした感覚を覚えた。 電車がホームを離れる一瞬の出来事だったので、自分の勘違いかも知れないと明菜は思った。 明菜が時々利用する漫喫は駅前通りの雑居ビルの4階にあった。 エレベータで4階にあがり漫喫のドアを開ける。 受付には誰もいない。 呼び鈴を押す。 女性店員が、バケツに雑巾を持って小走りに来た。 会員証を出す。 「コースは如何なさいますか?」 「5時間パックをお願いします」 「はい。かしこまりました」 「あのう、もしかしたら寝ているかも知れないので、4時間30分したら起こして貰えませんか? それからミニカルビ丼と生ビールをお願いします」 「はい。かしこまりました」 部屋の番号札は“D-8”だった。 “D-8”の個室の座敷はトイレの近くの場所にあった。 個室に入ると明菜はテレビをつけた。 昨夜の火災事故の現場がテレビに写し出された。 昨夜の火災事故の犠牲者の名前が、 敬称なしで出ていた。 『えぇ!?そ、そんな馬鹿な……どうして……』 犠牲者の名前を見ていた明菜が突然、大声で叫んだ。 犠牲者の中に本宮明菜の名前があったからだ。 (どうして自分の名前が……) 「お客さま。 どうなさいました?」 生ビールを持ってきた店員が明菜に声を掛けた。
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