【5】

2/17
7332人が本棚に入れています
本棚に追加
/279ページ
明菜はスマホを手に取った。 右上のデジタル表示を見る。 19:30と表示されていた。 市川さんとの待ち合わせまで1時間ある。 明菜は漫喫を延長するか、ちょっと迷ったが、 「よし……」 と小さく呟くと会計を済ませて外に出た。 駅前のロータリーの斜め前にガラス張りの喫茶店があった。 明菜は喫茶店へ向かって歩いて行った。 「いらっしゃいませ」 店員が、ニコニコした笑顔で言った。 「アイスコーヒーのSを」 「100円でございます」 明菜はアイスコーヒーを受け取って、ガラス張りの出口に近いボックス席に座った。 店内は混雑していた。 (そうだ。テレビで犠牲者の中に、私の名前があったわね……。両親や会社の同僚にも私が生きている事を教えないと……電話しよう) 明菜はスマホを取り出した。 「えっ! どうして……」 スマホは壊れているのか、ホーム画面を表示したままで動かない。 「ちょっとすみません。 家に電話したいのに、スマホが壊れたのか動かないので、スマホを貸して貰えないでしょうか……」 隣の席の20代の女性に尋ねた。 女性は、ちょっと躊躇っていたが、 「はい、どうぞ」 と、怪訝そうな顔をしながら明菜に渡した。 「はい、ありがとうございます。 お借りします」 「……本宮でございます……」 「あっ、お母さん」 「どちらさまですか?」 「……明菜よ」 「……い、いたずらはやめて下さい。 あ、あきちゃんは、こんな姿になって、今、私達の元へ戻ってきています……」 「……」 「……どうしたんですか? 顔が真っ青ですよ……」 「……大丈夫です。お電話ありがとうございました」 明菜はスマホを隣の女性に丁寧に返した。 (お母さんが私と他人を間違える訳はないし……すると……この私は、いったい誰なの……明日、確かめにゆこう……)
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!