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明菜はスマホを手に取った。
右上のデジタル表示を見る。
19:30と表示されていた。
市川さんとの待ち合わせまで1時間ある。
明菜は漫喫を延長するか、ちょっと迷ったが、
「よし……」
と小さく呟くと会計を済ませて外に出た。
駅前のロータリーの斜め前にガラス張りの喫茶店があった。
明菜は喫茶店へ向かって歩いて行った。
「いらっしゃいませ」
店員が、ニコニコした笑顔で言った。
「アイスコーヒーのSを」
「100円でございます」
明菜はアイスコーヒーを受け取って、ガラス張りの出口に近いボックス席に座った。
店内は混雑していた。
(そうだ。テレビで犠牲者の中に、私の名前があったわね……。両親や会社の同僚にも私が生きている事を教えないと……電話しよう)
明菜はスマホを取り出した。
「えっ! どうして……」
スマホは壊れているのか、ホーム画面を表示したままで動かない。
「ちょっとすみません。
家に電話したいのに、スマホが壊れたのか動かないので、スマホを貸して貰えないでしょうか……」
隣の席の20代の女性に尋ねた。
女性は、ちょっと躊躇っていたが、
「はい、どうぞ」
と、怪訝そうな顔をしながら明菜に渡した。
「はい、ありがとうございます。
お借りします」
「……本宮でございます……」
「あっ、お母さん」
「どちらさまですか?」
「……明菜よ」
「……い、いたずらはやめて下さい。
あ、あきちゃんは、こんな姿になって、今、私達の元へ戻ってきています……」
「……」
「……どうしたんですか? 顔が真っ青ですよ……」
「……大丈夫です。お電話ありがとうございました」
明菜はスマホを隣の女性に丁寧に返した。
(お母さんが私と他人を間違える訳はないし……すると……この私は、いったい誰なの……明日、確かめにゆこう……)
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