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「でしょうね。この暇人の穀潰し」
それは貴女が私に仕事を寄越さないからだ、とは口が裂けても言わない。
言った日には……どんな仕事を振られるか分かったものではない。
「……だったんですが、気が変わりました。なにか手伝いましょうか?」
主人が大変そうに見えたと言うのと、何よりいい加減暇が過ぎた故の気まぐれ発言だった。
「あら?執事の真似事でもしたくなった?」
言った瞬間から予想できていたことだが、案の定、嫌味を返される。
「まぁ、名目上はお嬢の執事ですからね」
この屋敷には私を含め、多くの者が勤めている。
そして、私を除くその全てが若い女性だ。
皆が皆、メイドとしてこの屋敷の炊事、掃除、洗濯等をこなしてくれている。
その中に、二十歳そこそこの若い“外見”の男が一人。
怪しいではないか。
そこで私は燕尾服を纏い、名目上『執事』としてお嬢の側にお仕えしている、という設定だ。
「見た目に依らず“脳筋”な貴方に執務なんか任せたら、余計に私の仕事が増えるじゃない」
素敵なご意見だ。
そして御尤もである。
教養のない私に執務など考えるまでもなく勤まるはずがない。
お嬢の言う通り、私の仕事は肉体労働。
『執事』という“設定にせざるを得ない”、口外できない仕事。
つまりは汚れ仕事。
早い話が『殺し屋』だ。
強大な力を持ちながら、否、持つが故に、あまり表に出たがらないお嬢に代わり、面倒事を片付けるのが私の仕事。
最後に働いたのが半年ほど前。
少しばかり“オイタ”が過ぎたエルダーヴァンパイアを全滅させた。
それ以来は平和そのもので、イコールして私は暇そのもので……素晴らしいことではあるのだが。
「あぁ……だったら“あの件”、貴方に任せるわ。他の娘に頼もうと思っていたけど」
「おや?なにかお困りで?」
「『アミィ』がキッチンへ向かったとの情報が入ったわ」
「……大事件じゃないですか」
「それじゃあ任せたわよ。さっさとお行きなさい」
「言われるまでもなく」
失礼します、と踵を返し、私は早足でキッチンへ向かう。
『アミィ』の蛮行を止めるため。
『アミィ』とはこの屋敷に住む女性の一人。
メイド服を見に纏い、色々と働いてくれているのだが……実のところ、彼女はメイドではない。
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