五章 1

3/5
前へ
/94ページ
次へ
「でしょうね。この暇人の穀潰し」 それは貴女が私に仕事を寄越さないからだ、とは口が裂けても言わない。 言った日には……どんな仕事を振られるか分かったものではない。 「……だったんですが、気が変わりました。なにか手伝いましょうか?」 主人が大変そうに見えたと言うのと、何よりいい加減暇が過ぎた故の気まぐれ発言だった。 「あら?執事の真似事でもしたくなった?」 言った瞬間から予想できていたことだが、案の定、嫌味を返される。 「まぁ、名目上はお嬢の執事ですからね」 この屋敷には私を含め、多くの者が勤めている。 そして、私を除くその全てが若い女性だ。 皆が皆、メイドとしてこの屋敷の炊事、掃除、洗濯等をこなしてくれている。 その中に、二十歳そこそこの若い“外見”の男が一人。 怪しいではないか。 そこで私は燕尾服を纏い、名目上『執事』としてお嬢の側にお仕えしている、という設定だ。 「見た目に依らず“脳筋”な貴方に執務なんか任せたら、余計に私の仕事が増えるじゃない」 素敵なご意見だ。 そして御尤もである。 教養のない私に執務など考えるまでもなく勤まるはずがない。 お嬢の言う通り、私の仕事は肉体労働。 『執事』という“設定にせざるを得ない”、口外できない仕事。 つまりは汚れ仕事。 早い話が『殺し屋』だ。 強大な力を持ちながら、否、持つが故に、あまり表に出たがらないお嬢に代わり、面倒事を片付けるのが私の仕事。 最後に働いたのが半年ほど前。 少しばかり“オイタ”が過ぎたエルダーヴァンパイアを全滅させた。 それ以来は平和そのもので、イコールして私は暇そのもので……素晴らしいことではあるのだが。 「あぁ……だったら“あの件”、貴方に任せるわ。他の娘に頼もうと思っていたけど」 「おや?なにかお困りで?」 「『アミィ』がキッチンへ向かったとの情報が入ったわ」 「……大事件じゃないですか」 「それじゃあ任せたわよ。さっさとお行きなさい」 「言われるまでもなく」 失礼します、と踵を返し、私は早足でキッチンへ向かう。 『アミィ』の蛮行を止めるため。 『アミィ』とはこの屋敷に住む女性の一人。 メイド服を見に纏い、色々と働いてくれているのだが……実のところ、彼女はメイドではない。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加