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「……失敗か」
ポツリと男は呟いた。
「……まぁ、いい。想定内だ。アレの創り方はもう分かった。また一から始めればいい。私に時間は……そう、“永遠にあるのだから”」
男はブツブツと独り言を呟き続ける。
そうやって自分を納得させ、“鎮めて”いるのだろう。
「……ッ」
大きな音と共に、男の目の前のテーブルが粉砕される。
男の手に依って。
……鎮まってはいないようだ。
怒りが。
「物に当たるとは。みっともないぞ、『デリウス卿』」
私はその姿を見て、笑いを抑えることが困難と感じ、男、『デリウス』に声を掛けた。
デリウスは俊敏な動作で振り返り、私を確認すると、目を大きく見開いた。
……そんな顔をされてはいよいよ笑いを堪えられなくなるではないか。
「『カイン』……何故卿が此処に居る?死んだのではなかったのか!?」
「私の失敗も想定内だったようだな」
デリウスの様子が余りにも滑稽で、私は口角を吊り上げながらそう言った。
「私がバルバトスを抑えられず、殺され、彼の地に現れたとしても、自分だけは助かるように此処からヴァンピールを操った。だが、他の奴等が納得しまい?」
デリウスは私を幽霊でも見るかのような表情で睨み付ける。
……私を笑い死にさせる気か。
「ヴァンピールを通じ、他のエルダーも操ったのだろう?アレを創ったのは卿だ。卿のみが操れるようにする程度、造作もない筈。“我々が此の世界の支配者になる”?違うだろう?支配者は卿だけだ」
「……何が目的だ、カイン。ヴァンピールの創り方か?」
此の言葉に、私は遂に吹き出し、みっともなく大笑いをする。
デリウスは気味が悪そうに私を見詰めた。
さぞかし気味が悪かっただろう。
私自身そう思う。
一頻り大笑いをした私は呼吸を整えると口を開く。
「私の目的はただ一つ。卿を殺すことだけだ」
私がそう告げると、流石にデリウスも表情を変える。
「舐めているのか?」
随分とご立腹の様子だ。
「高がエルダーの貴卿が、仮にも三英雄の元で闘いを学んだ此の私を殺せるとでも?」
「舐めているのだ、デリウス」
そう言って私は背に羽を広げ、天井を突き破り、宙へと舞い上がった。
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