五章 0'

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『吸血鬼大戦』と呼ばれる大きな戦争があった。 らしい。 “らしい”、と言うのは私自身が当事者ではないからだ。 吸血鬼共と人間……ブレイカー達との戦争。 ブレイカーではない私には一切関係がない。 ……筈だった。 否、彼の戦争に関しては私が関係していないことは紛れもない事実だ。 正確には、“皺寄せがやってきた”とでも言うべきか。 あの大戦以来、目に見えて吸血鬼の被害が増えた。 傍迷惑な事に、奴等は全面戦争に向けて兵隊を増やすだけ増やし、更に迷惑な事にブレイカーはそれを相当数逃がしてしまっていた。 吸血鬼の絶対数が増えれば、その被害も増えるのは必然。 そうなれば……“私の仕事が増える事”もまた必然だった。 小さな町の、小さな教会。 内部は酷く荒れ果て、此の世界の人々から信仰が消え失せて久しいことを物語っている。 その中にある、砂埃に塗れた聖堂で、私は片膝を地に着け、十字に磔にされた“彼”の偶像へ向けて祈りを捧げる。 此れから行う事への赦しを乞うように。 否、違う。 私は此れから行う事に対し、罪の意識など感じてはいない。 寧ろ此れは、“救い”なのだ。 ……甲高い音が聖堂内に響き渡った。 壁の上部にはめ込まれていたステンドグラスの割れた音だ。 否、“割られた”か。 その音が、連続して鳴り響く。 「居た。“血袋”だ」 そしてその割れた穴から、穢れた者共が入り込んできた。 数は……六体。 多い。 吸血鬼は数居る幻想種の中でも、かなり強力な部類に入る。 それが六体。 「他の血袋共を何処へやったよ?牧師さん?」 「私は牧師ではない」 吸血鬼共は顔を見合わせて首を傾げる。 「私は“神父”だ。どちらかと言えばな」 信仰無き此の世界で、牧師と神父の違いを理解できる者は少ないだろう。 「正確に言うならば……」 そして、 此の言葉を知る者は最早居ないのかも知れない。 「私は『祓魔師(エクソシスト)』だ」 そう言いながら私は立ち上がり、振り返って吸血鬼共を見据え、“右手に一本の槍を喚び出した”。 何の装飾もない、変哲もない槍。 おい、なんだアレ、と吸血鬼の一体が仲間を見る。 その隙を突き、私の槍はその吸血鬼の身体を貫いた。
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