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『吸血鬼大戦』と呼ばれる大きな戦争があった。
らしい。
“らしい”、と言うのは私自身が当事者ではないからだ。
吸血鬼共と人間……ブレイカー達との戦争。
ブレイカーではない私には一切関係がない。
……筈だった。
否、彼の戦争に関しては私が関係していないことは紛れもない事実だ。
正確には、“皺寄せがやってきた”とでも言うべきか。
あの大戦以来、目に見えて吸血鬼の被害が増えた。
傍迷惑な事に、奴等は全面戦争に向けて兵隊を増やすだけ増やし、更に迷惑な事にブレイカーはそれを相当数逃がしてしまっていた。
吸血鬼の絶対数が増えれば、その被害も増えるのは必然。
そうなれば……“私の仕事が増える事”もまた必然だった。
小さな町の、小さな教会。
内部は酷く荒れ果て、此の世界の人々から信仰が消え失せて久しいことを物語っている。
その中にある、砂埃に塗れた聖堂で、私は片膝を地に着け、十字に磔にされた“彼”の偶像へ向けて祈りを捧げる。
此れから行う事への赦しを乞うように。
否、違う。
私は此れから行う事に対し、罪の意識など感じてはいない。
寧ろ此れは、“救い”なのだ。
……甲高い音が聖堂内に響き渡った。
壁の上部にはめ込まれていたステンドグラスの割れた音だ。
否、“割られた”か。
その音が、連続して鳴り響く。
「居た。“血袋”だ」
そしてその割れた穴から、穢れた者共が入り込んできた。
数は……六体。
多い。
吸血鬼は数居る幻想種の中でも、かなり強力な部類に入る。
それが六体。
「他の血袋共を何処へやったよ?牧師さん?」
「私は牧師ではない」
吸血鬼共は顔を見合わせて首を傾げる。
「私は“神父”だ。どちらかと言えばな」
信仰無き此の世界で、牧師と神父の違いを理解できる者は少ないだろう。
「正確に言うならば……」
そして、
此の言葉を知る者は最早居ないのかも知れない。
「私は『祓魔師(エクソシスト)』だ」
そう言いながら私は立ち上がり、振り返って吸血鬼共を見据え、“右手に一本の槍を喚び出した”。
何の装飾もない、変哲もない槍。
おい、なんだアレ、と吸血鬼の一体が仲間を見る。
その隙を突き、私の槍はその吸血鬼の身体を貫いた。
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