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「今からおよそ二千年前、ローマの兵士に一般的に支給されていた、何の変哲もない槍だ」
嘘吐くんじゃねぇ、と吸血鬼が声を張り上げる。
「そんなもんに刺されたくらいでコイツ等が死ぬ訳ねぇだろ!?」
「そう、唯の量産品だった此の槍は、ある日を境に特別なものとなった」
“聖者の血を浴びたのだ”
「聖……者……?」
「聖者の血に依って清められた我が槍の穂先に邪なる者が触れれば、その者もまた清められ、浄化される。汝等は死ぬ訳ではない。清められ、我が“主”の御許へと送られるだけだ」
どっちも変わんねぇだろ、と叫ぶ吸血鬼を無視し、私は槍を構えた。
「あ、いや、悪かった!悪いことをしました!反省します、神父様!だ、だから、どうか許して……」
「そう、赦すのだ。此の槍に依って」
「ち、違ッ……」
「我が槍に銘は無い。だが、かつての所持者の名から取ってこう呼ばれる」
聖槍『ロンギヌスの槍』
教会内に、最期の絶叫が木霊する。
私は再度膝を着き、“彼”の偶像へ祈りを捧げる。
今宵の仕事も終わった。
これで、避難させていた此の町の住人達も、安心して眠れる日々が訪れるだろう。
そして、罪を重ねた此の者達もまた、これ以上罪を重ねることもない。
多くの者を救った。
多くの者を救ってきた。
今宵も、此れ迄も、そして此れからも。
教皇聖下は私に、“此の世界のメシアとなれ”と仰った。
多くの者を救った。
多くの者を救ってきた。
だが……
「主よ、貴方が居らぬ此の世界で、一体誰が……私を救ってくれるのでしょうか?」
赦しを乞うているわけではない。
私は唯、救いを求め、“彼”に、届くかも分からない祈りを捧げ続けた。
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