五章 0'

4/4

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
「今からおよそ二千年前、ローマの兵士に一般的に支給されていた、何の変哲もない槍だ」 嘘吐くんじゃねぇ、と吸血鬼が声を張り上げる。 「そんなもんに刺されたくらいでコイツ等が死ぬ訳ねぇだろ!?」 「そう、唯の量産品だった此の槍は、ある日を境に特別なものとなった」 “聖者の血を浴びたのだ” 「聖……者……?」 「聖者の血に依って清められた我が槍の穂先に邪なる者が触れれば、その者もまた清められ、浄化される。汝等は死ぬ訳ではない。清められ、我が“主”の御許へと送られるだけだ」 どっちも変わんねぇだろ、と叫ぶ吸血鬼を無視し、私は槍を構えた。 「あ、いや、悪かった!悪いことをしました!反省します、神父様!だ、だから、どうか許して……」 「そう、赦すのだ。此の槍に依って」 「ち、違ッ……」 「我が槍に銘は無い。だが、かつての所持者の名から取ってこう呼ばれる」 聖槍『ロンギヌスの槍』 教会内に、最期の絶叫が木霊する。 私は再度膝を着き、“彼”の偶像へ祈りを捧げる。 今宵の仕事も終わった。 これで、避難させていた此の町の住人達も、安心して眠れる日々が訪れるだろう。 そして、罪を重ねた此の者達もまた、これ以上罪を重ねることもない。 多くの者を救った。 多くの者を救ってきた。 今宵も、此れ迄も、そして此れからも。 教皇聖下は私に、“此の世界のメシアとなれ”と仰った。 多くの者を救った。 多くの者を救ってきた。 だが…… 「主よ、貴方が居らぬ此の世界で、一体誰が……私を救ってくれるのでしょうか?」 赦しを乞うているわけではない。 私は唯、救いを求め、“彼”に、届くかも分からない祈りを捧げ続けた。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加