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風がサラサラと流れれば、蔵と蔵との合間に咲き誇る夜桜が舞い、その度に夜を束ねたような黒髪が揺れた。
落ちてきそうなほど大きな月を見上げながら猪口(ちょこ)を傾ける背中は、本当に絵になる姿をしている。
常に背にするだけあって、矢張り“月”がよく似合う。
「ん、眠れないのか?」
「いえ、こんないい月夜に、直ぐ眠るのが勿体なくて」
その返事を聞くと、カザミは無言のまま縁側の端に寄り、リーンを隣へ招いた。
普段と違い、髪を下ろしているカザミ
よく見ると結構な長さがある。
いつも寝入る前にしか見れない姿に、リーンは月を見るのも忘れてそっちの方ばかり目がいってしまう。
「俺の顔に何か付いてるか?」
マジマジと見つめる視線に怪訝(けげん)な表情を浮かべると、リーンは慌てて正面を向く。
「わあーー」
思わず口を開いたままの間の抜けた顔になるリーン。
それほどまでに、桜吹雪に彩られた月夜は絶景だった。
「飲むか?」
そう言って徳利を勧めてくるカザミ。
普段なら丁重にお断りする所だが…
「頂きます」
カザミのように、こんな光景が絵になる男になりたいと願い、苦々しい顔で猪口に口を付ける。
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