託されし霊剣

59/71
前へ
/1098ページ
次へ
風がサラサラと流れれば、蔵と蔵との合間に咲き誇る夜桜が舞い、その度に夜を束ねたような黒髪が揺れた。 落ちてきそうなほど大きな月を見上げながら猪口(ちょこ)を傾ける背中は、本当に絵になる姿をしている。 常に背にするだけあって、矢張り“月”がよく似合う。 「ん、眠れないのか?」 「いえ、こんないい月夜に、直ぐ眠るのが勿体なくて」 その返事を聞くと、カザミは無言のまま縁側の端に寄り、リーンを隣へ招いた。 普段と違い、髪を下ろしているカザミ よく見ると結構な長さがある。 いつも寝入る前にしか見れない姿に、リーンは月を見るのも忘れてそっちの方ばかり目がいってしまう。 「俺の顔に何か付いてるか?」 マジマジと見つめる視線に怪訝(けげん)な表情を浮かべると、リーンは慌てて正面を向く。 「わあーー」 思わず口を開いたままの間の抜けた顔になるリーン。 それほどまでに、桜吹雪に彩られた月夜は絶景だった。 「飲むか?」 そう言って徳利を勧めてくるカザミ。 普段なら丁重にお断りする所だが… 「頂きます」 カザミのように、こんな光景が絵になる男になりたいと願い、苦々しい顔で猪口に口を付ける。
/1098ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11614人が本棚に入れています
本棚に追加