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逃げるという選択肢は無かった。
グリーンベルは緑鐘祭の最中、このまま古代竜に台無しにされる訳にはいかない。
それに、せっかく田植えを終えたばかりなのに、踏み荒られたら堪ったものではない。
改めて辺りを見回せば、どうにかなりそうだと、軽快な足取りで段々畑を降りていく。
「ともかく、畑の方にでも隠れて。側杖(そばづえ)食らって尾に叩かれたら大変だ」
「は、はい!助かりますぅーーって、えぇっ!?丸腰じゃないですか!」
商人は、助けに来てくれた筈の男が自分より装備が乏しい事に目を丸くする。
「さっきの鎌はどうしたんです?あれで闘えば…」
「ハハッ、あんな物じゃジュラには歯が立たない。いや、刃が立たないって言うべきか?」
「そんなのどっちでもいいですよぉー」
そうこうしている内に、古代竜の足音が響いてくる。
「あわわわわ…ほ、本当に任せちゃっていいんですね!?」
「まぁ、さすがに倒せと言われれば無理ですがね」
商人風の男は、言われた通り段々畑に身を潜めると、大胆にも巨躯を誇る相手に真っ直ぐ進んで行く背中を案じる。
「だが、遣り様はある」
…不思議と、その背には安堵感があった。
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