11615人が本棚に入れています
本棚に追加
/1098ページ
「…とまぁ、そういう経緯があって手に入れた大切な剣なんだ。コイツは」
甲板に照りつける太陽を反射し、鈍い光を放つ黄土色の刃を、リーンは懐かしむように見つめる。
「へえぇ!そんな強かったんスか、レイカさんの兄貴って!」
ライルは目を輝かせながらリーンの話に終始聞き入っていたが、いつからかリーンの剣よりもカザミの方に興味が移ったらしい。
「そりゃあ強かったさ、1対1であの人に勝てるハンターなんて俺の知る限りそうはいない。なのにそれを鼻に掛ける事は一切しない。カザミさんは正に、男が惚れるような男だったよ」
リーンが自分の事のように嬉しそうに語っていると、そこへレイカとリズリットが並んでやってきた。
「なになに、カザミの話し?」
「そう言えばリーンって、あの頃はまだ自分の事を『僕』って言ってましたよねー」
「そうそう!久しぶりに聞きたいなー」
二人が「ぼーく、ぼーく」と、悪戯っぽく合の手を入れ始める。
別の話題に切り替えて逃れようとするものの、ライルも聞きたいらしく、合の手に参加していた。
やがて観念して、リーンが気恥ずかしそうに頬を掻くと、一斉に手拍子が止んだ。
「ぼ…もういいだろ?」
丁度その時に鳴り響くラッパの音。
「おっと、いけない。そろそろ到着の用意をしないと、乗り過ごしたら大変だ、うん」
リーンは甲板を降り、早足で立ち去って行った。
守られるだけの『僕』はもう卒業、これからは一人の『俺』として、仲間を守り、守られる対等の存在になる…
これは誰にも言わない、リーンが責任を負う立場に立った時、脱ぎ捨てた名前である。
(だからもう『僕』には戻らないーー)
最初のコメントを投稿しよう!