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「はぁ…まぁいいや。とりあえず、広報メガネとの昼休みデートの話でも聞かせてくれよ」
「何がとりあえずよ、全然とりあえずになってないから」
この笹木という男は遠慮がないというか、空気が読めないというか、心を察することができないというか…なんというか。
人がナーバスモードなことに気付いていながら、いつも通りに失礼をかましてくるから驚く。
「お前の数年ぶりの色恋沙汰だからな、そりゃ興味もわくよ」
「ちょっと、私のトマトまで食べないでよ」
ああ、わりーわりーと箸をおさめながら、へらりと笑った笹木。
箸が去ったあとには、2つの真っ赤なトマトと3つのモッツァレラチーズ。トマトとモッツァレラを一緒に食べるのが好きなのに、それを知っててトマトだけを拐っていった誘拐犯は、どうやらすでに少し酔っぱらっているようだ。
「ちょっと、今日は送っていかないからね、あんま変な飲み方しないでよ」
「酔ってねぇし、つか、お前は酔っぱらって口が軽くなればいい」
「はぁ?何よ、それ」
別に私は自分は口が固い方だ、とは思ってないけど。
でも、自分の心の内まで人にさらすのは苦手だというのは自覚している。不変的な真理ならともかく、自分の考えなんて正しいかどうかもわからないものを人に話してしまうのは何だか怖い。
そういや、元彼にもこんなようなことを言われたことがあった。
もっと頼ってくれたらいいのに、とか、もっと甘えたこと言ってもいいのに、とか。
男ってのは頼られたいという欲求が強いものらしい。
(私なりに最大限、甘えたし頼ってたんだけどなぁ…)
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