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「そうだよ、別にそれで痩せた訳じゃないけどね、この時期はいつも体重落ちるから」
「そう、気に病んでるんじゃないなら良かった」
しばらく会ってなかったから元気かなって思ってたよ、なんて。
この人からこんな台詞を言われてキューンッとときめいちゃう女子は、この世界に何人いるだろうか。
(名前を呼ばれただけでも喜ぶ人だっているはずだ)
「ケーキ買って来たんだ、美里ちゃんも一緒に食べよう」
「私今日パス、お腹いっぱいで入んない、ご飯食べてきたんだ」
「そっか、ならまた今度」
カードキーでエントランスを開き、エレベーターへ。
先に乗り込み「開」を押してくれたシンくんにお礼を言って、私も足を踏み入れた。
セキュリティー万全なこのマンションはただ階数を押しても無反応。
各階に決められた4桁の番号を押さないと階数が点灯しない作りになっている。
私と実由が住んでいるのはワンフロアに一部屋の階だから、これはかなりありがたい機能だ。
お互いの家を行き来する時に安心して部屋の鍵を開けて待っておける。
「…よく覚えてたね、うちの番号」
「記憶力は良い方だと思う、職業柄」
ふと、パネルを見ると、すでに点灯している7階と8階。
実由と一緒にうちでご飯を食べたりだとか、過去に何度かうちにも来たことがあったけど、まさか番号まで覚えているとは思わなかった。
侮れん、俳優の記憶力。
「じゃ、またね、美里ちゃん」
「はーい、良い時間を~」
ひらひらと手を振ってシンくんを見送りつつ、「閉」を押して扉を閉める。
目深にかぶった帽子に、薄手のコート。
お忍びスタイルにしては用心が足りない格好で、シンくんは実由の部屋へと入っていった。
***
実由に「明日の朝ご飯一緒に食べよう」と誘われたのは、シンくんと出会した週の金曜の夜のことだった。
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