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ただいま、おかえり・・・
マツは春になった町を足早に歩いた
マツはいつも寝床にしていた赤いミンサ織のポシェットをして歩いた
身の丈153センチのマツに戻っていた
七分咲きの桜の木を少し見上げた
そして歩きながら
カシミヤのスカーフを足で蹴り上げた トメ子の姿を思い出していた
住み慣れた木造の一軒家を余儀なく去らなくてはならなくなったのは
去年の夏・・・
マツとウメ子とトメ子は五〇年の思い出を片付け引っ越した
マツは心の整理ができないまま半年が過ぎていた
トメ子は終バスで帰ってきたあの夜
カシミヤのスカーフを蹴り上げたとき、吹っ切れたのか
もうここへは来ることはなかった
半年前に住んでいた家の前に
マツは梅の花が咲いていた頃、これが最後と思い一度だけ見に来た
そして今日、
袋小路の片隅でスモモの花が満開に咲いていた・・・
また来てしまった・・・
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